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アートセラピーとは


::::::アートセラピーとは::::::

アートセラピーの効果
日米のアートセラピーの違い
アートセラピにおける倫理

 アートセラピーとは、一言で言えば、アートによる、またはアートを介して行う心理療法のことです。「芸術療法」「クリエイティブ・ア−ツセラピー」は、音楽療法やダンスセラピーなど、表現を使った様々なセラピーが含まれますが、ここでは「アートセラピー」についてのみ、述べていきたいと思います。
 アートセラピーでは、絵を描く絵画、切り貼りでつくるコラージュ、粘土や木材でつくる造形などを代表とする、あらゆるアートの手法を用いて行います。砂の入ったトレーに人形などをのせてつくる箱庭は、箱庭療法(サンドトレー/サンドプレイセラピー)と呼ばれるもので、厳密にはアートセラピーに分類されませんが、このサイトではアートセラピーと一緒にご紹介します。アートセラピーは、例えば病院やクリニックにおいて治療目的としても用いられますが、それ以外にも、様々な目的で応用することが可能だと思います。近年、事故や震災などでトラウマを負った方々の心のケアとして紹介されたことで広く知られてきています。アートセラピーは治療や心理査定としてだけでなく、感情を発散させるため、自分を深く知るため、また2人以上集まってコミュニケーションを高めるため、楽しむため、などその目的は多岐に渡っていると思います。大切なことは、アートセラピーは"美術教育"ではないということでしょう。テクニックや作品の完成度は関係ありません。「上手い」「下手」などの価値基準を一旦脇にどけて、作品が表す作者の内面や、創作過程に目を向けていきます。


***アートセラピーの効果***
 なぜアートが良いのでしょうか?アートとセラピーの関係について一言で述べるのは困難ですが、あえて説明するのであれば、その理由は「創作の過程」と「作品そのもの」にあると考えられます。 ここでは、この2点について、私なりの考えを述べていきたいと思います。
  はじめに、物を創る過程そのものに癒しや自己回復の効果があると考えられます。自分らしさ、自分の経験、感覚、感情などは、無我夢中で物をつくっているときに自然に溢れ出てくるものです。自分の内面にあるイメージを作品に表現することで、心が解放されたようにすかっとすることがあります。この過程は心理学では"昇華"などとも呼ばれます。また、研究によるとイメージを具象化する過程は脳の活性化に効果があるともいわれています。   
  次に、アートは言葉と同じくコミュニケーションの手段として有効です。作り終わった後に作品の色、形、テーマなどをじっと観察してみましょう。セラピストからのサポートを受け、作品を共有し合う中で「私って実は〜?」という新しい発見があるかもしれません。自分の中の自分、乃ち自分の内面と作品を通じて対話しているのです。セラピストとクライアント、親子、カップル、グループなど2人以上で行う場合、コミュニケーションとしての役割が一層強まります。交流しながらの制作、お互いの作品を見せ合う過程、作品を介して語り合う時間などにより、相手の知らなかった一面を発見したり、共に作業する喜びを得ることができるのです。特にアートで表現することは、言葉よりも心理的な壁が低い場合があります。言葉で表現できない気持ち、口で言いたくない経験、無意識などが、アートには表しやすいことがあるのです。また、セラピストは、創作者の気持ちや無意識についてだけでなく、認知レベル、発達レベルなどを知る手がかりにもなります。 アートセラピーは対象となる方によって、その目的と効果、手法は様々です。 それでは、具体的にどのような現場で使われているのでしょうか。

米国での現状を例にすると、
*精神科病院、病院の心療内科・精神科、クリニックなどで精神療法やデイケアとして
*アルツハイマー療養施設やものわすれ外来、療養病院など高齢者や認知症の予防や治療として
*ホスピスなどで患者の緩和ケアと患者の家族の心のケア、長期入院病棟、小児病棟などの心のケアやアクティビティーとして
*スクールカウンセリング、教育相談室、発達センター、適応指導室などで幼児、子供、思春期を対象に
*虐待、DV、犯罪被害者、トラウマ治療として
*刑務所における受刑者のカウンセリングや更正プログラムとして
その他、親子、家族、グループ、医療従事者や心理士など専門家の為のコミュニケーションアップやトレーニング、社内研修や院内研修、より一般的に自分を見つめ直す、などの目的でも広く活用できます

***日米のアートセラピーの違い***
  日本におけるアートセラピーの認知のされ方はアメリカとはだいぶ異なっているように思います。アメリカにはAATA(America Art Therapy Association)という学会があり、学会が認定した大学院レベルの教育機関が専門的な教育プログラムを提供しています。学校や病院をはじめ、様々な分野でアートセラピストは活躍しています。専門職としての受け入れ体制が、ある程度整っていると言えるでしょう。日本には30年以上の歴史を持つ芸術療法学会によって、長年、芸術療法が研究されてきました。また、心理査定としての描画は臨床の場面で心理士によって多く使われてきました。しかし、残念ながら心理療法としてアートセラピーが導入されている機関は欧米諸国に比べれば少ないですし、専門的なトレーニング機関はなく、まだまだ認められていないのが現状でしょう。近年は癒しブームやカラーセラピーの人気に伴う形で、アートセラピーは注目されています。「自己発見」「自己分析」、また「子供の情操教育」などの目的で、専門学校やスクールでは習い事感覚で通えるアートセラピー講座を開講しています。日本におけるアートセラピーの普及と専門性の確立のためにできることを、私自身、考えていきたいと思います。

***アートセラピーにおける倫理***  
 ここではアートセラピーの中で生じる倫理問題について、私見を交えながら述べていきたいと思います。カウンセリング/セラピー分野に携わる人は、常に倫理について考えることが求められます。「クライアントの利益は何か」「クライアントにとって何が一番大切か」を前提に、セラピストは所属学会(臨床心理士であれば日本臨床心理士学会)や医療機関のガイドラインや倫理規定を遵守することが求められます。アメリカの大学院ではEthics(倫理)については何度も議論を重ねながら、現場でセラピスト/カウンセラーがどう対応すべきかについて考えさせられました。アメリカには、倫理規定に加え、メンタルヘルスに関わる人達に適用される細かい法律が州ごとに定められています。セラピスト/カウンセラーは法律と倫理規定、また自分自身の信念の間で板挟みになることが多いのです。
 American Art Therapy Credential Boards (ATCB)では認定アートセラピストの為の倫理規定を定めています。これはあくまで学会が定めた規定ですので、日本でアートセラピーを行う上では、関係がないものです。しかし、アートセラピーを行う際に知っておくと参考になるガイドラインだと思います。ここでは2つの項目を抜粋してご紹介します。 
○アートセラピストはクライアントとの関係の中で生じた会話、及びアーティスティックな表現を含む情報を守秘義務で守られているとして、尊重・保護しなければならない。
○アートセラピストは書面による許可書を得ずにセッション内で生じた対話、及びアートなどについて公に使用すべきでない。

心理療法としてアートセラピーを用いる際に、作品やその過程の観察記録等はカウンセリングで得た対話による情報と同じ扱いをしなければなりません。つまり、カルテなどと一緒に厳重に管理するか、希望があれば作品の制作者に返却することを考慮します。パブリックスペースに展示をする際には、制作者本人が望んでいるか、またその行為が本人の為になる明らかな理由があるかどうかを考える必要があります。その上で、本人の同意、未成年の場合は保護者の同意を書面で取ることが規定されています。アートセラピスト自身の、また所属団体の宣伝や資金集めなどの目的は、これに準じないということになります。また、ワークショップや学会発表、アートセラピーの講座等の目的で作品などを使用する際にも、原則的には制作者の書面による同意書が必要、と述べられています。たとえ同意を得たとしても、本名や明らかにその人だとわかってしまうような情報は控え、名前や年齢、出身地、家族構成などを変更して公表すると同時に、時には、作品を模作して、イメージを多少変更して匿名性を維持する必要もあるのです。
 学会の倫理規定とは別に、アートセラピーの中で様々な倫理的問題にぶつかることがあります。クライアントの絵を無意識であれ「うまい」「下手」と判断していないか、アートセラピストが描かせたい絵にクライアントの絵を導いていないか、クライアントが未成年の場合、本人が望まないのに作品を親が見たがる場合にどう対応すべきか、絵の展覧会や発表会への参加などについてです。私自身、こういった問題にぶつかった際には、常に「クライアントにとっての利益」を最優先に考え、臨機応変に対応するよう心掛けています。


(C)2004 Akiko Kuraish